中小企業診断士資格の維持・更新

中小企業診断士の資格を登録をしてからも、その維持と更新のために、時間的・金銭的な負担が必要となります。

今回は、その維持・更新の方法とその費用について見ていきます。

更新の要件

中小企業診断士資格の有効期間は、5年間となっています。中小企業庁の公表する「中小企業診断士制度の概要」によると、5年経過後に更新をするためには、知識の補充要件と実務の従事要件の両方を満たしている必要があります。

  • 知識の補充要件(以下いずれか)を5回満たす
    • 「理論政策更新研修」の受講
    • 中小企業大学校の「支援人材向け研修」の受講
    • 「論文審査」の合格
    • 「理論政策更新研修」または中小企業大学校の「支援人材向け研修」の講師
  • 実務の従事要件(以下いずれか)に5年間で30日以上従事
    • 中小企業者に対する経営診断・助言業務
    • 実務補習または養成課程の実習の指導

より具体的に見ていきます。

知識の補充要件

理論政策更新研修

理論政策更新研修を行うことができるのは、経済産業大臣の登録した機関のみであり、中小企業庁の公表する「理論政策更新研修機関一覧 」によると、以下5機関です。

中小企業診断協会は、各都道府県で年1回以上開催します。人数の多い都道府県は、それに応じて回数も多くなり、最大は東京都で平成28年度は31回です。

実践クオリティシステムズは、仙台・さいたま・東京・藤沢・金沢・名古屋・大阪・高松・広島・福岡に会場が設定されています。

経営教育研究所は、仙台・東京・名古屋・大阪・高松・広島・福岡の7会場です。なおこちらはTBCと経営母体が同じなので、TBCのカリスマ講師 山口先生に教わることができます。

あきない総合研究所は、仙台・東京・名古屋・大阪・徳島・広島・福岡で会場が指定されています。東京では様々なところが指定されているので、会場の空き状況によって使い分けているのでしょう。こちらでは、今現在予約可能な研修しか表示されないので、2017年1月28日の時点では年にどこで何回程度の研修を実施しているのかを把握することができません。

さいたま総合研究所は、札幌・仙台・東京・金沢・大阪・高松・広島・福岡に会場が設定されています。こちらも、今現在予約可能な研修しか表示されないため、年にどこで何回程度の研修を実施しているのかを把握することができません。

こうしてみると、やはり、東京・大阪は開催数が圧倒的に多いので、この地域の中小企業診断士は調整がしやすくて、非常に恵まれていることが分かります。

中小企業大学校 支援人材向け研修

中小企業大学校では、中小企業支援担当者向け研修を行っており、こちらでも理論政策研修の実績とすることができます。

会場は、仙台・東京・瀬戸・兵庫・広島・直方・人吉の中小企業大学校です。

コースは3~5日のコースが多く、料金は23,000~24,000円程度なので、研修としては安くてお得ですが、1コースで理論政策研修1回分なので、知識の補充要件の実績作りのみの観点ではコストパフォーマンスは低くなります。
しかし、15~20日の長期コースでも、40,000~57,000円なのでコースは本当に激安です。

さらに、1泊1,500~3,000円で寮を使えるので、滞在して本格的な研修を受ける場合などには、非常に魅力的な機関だと思います。

論文審査

論文審査も、基本的に理論政策更新研修の登録を認められた機関が提供します。ただし、あきない総合研究所に関しては、ホームページには案内が見当たらないため、提供していないものと思われます。

中小企業診断協会では、平成28年度の課題は、必修テーマ「新しい中小企業政策の動向」と、選択テーマ「最近の診断に関する理論及びその応用(「中小企業・小規模事業者の人材確保と育成支援」または「サービス業の生産性向上支援」について)」の2つです。受付期間は、年2回(7月末~8月上旬と1月)設定されていますが、文字数に関する指定はありません。

実践クオリティシステムズでは、論文審査を「インターネット研修」としており、インターネット教材で学習した後、1,000文字の課題を2つ提出するという仕組みです。5月~翌年2月まで、毎月受付しています。

経営教育総合研究所では、申込後に送付される論題資料で指定される2つのテーマについて、論文を提出します。テーマや論文の文字数などについては、ホームページ上には詳しい情報が掲載されていませんが、テーマは「2つ」と言っているので中小企業診断協会と同じではないかと予想されます。

さいたま総合研究所では、論文のテーマは中小企業診断協会のものと同様の必修テーマと選択テーマが設定され、文字数はいずれも4,000文字以内となっています。提出された論文は、内容の論理性:50点満点、論理性及び表現力:50点満点の合計100点満点で評価され、60点以上で合格となります。ただし、2015年2月に行われて以降、ホームページが更新されていないので、実質的にもう受け付けていないのかも知れません。

「理論政策更新研修」または「支援人材向け研修」の講師

これは、一般にはなかなか難しい方法だと思います。各研修を実施している機関に所属して、講師としての活動をしながら経験を積んでいけば、いつかは研修を担当できるようになれるかも知れません。

まずは、該当機関に所属するべく、人脈を広げてつながりを作り、所属できるように働きかけていくところから始めることになりますが、一旦講師になってしまえば、もう理論政策更新研修の受講回数を気にする必要はなくなるのは大きなメリットだと思います。難しいですが。

実務の従事要件

中小企業者に対する経営診断・助言業務

経営診断・助言業務に関する要件は、以下の通りです。

  • 中小企業に出向き、直接、経営者等に経営診断・助言を行った
  • 経営診断の対価の有無は問わない
  • 窓口相談業務については、合計5時間以上を1日分としてカウントする

中小企業庁「中小企業診断士制度のQ&A集」によると、以下の例が挙げられています。

金融機関等に勤務する登録診断士が行う融資先中小企業に対する経営改善のためのアドバイス等の経営診断や、製造業に勤務する登録診断士が下請企業等の工程管理の改善等の指導を行う場合

さらに、対象にならない例として、以下のように記載されています。自分の人脈などで自分で案件を見つけられる人は別ですが、フルタイムで企業に勤務する通常の人にとって、主業や副業でこなすことは難しい要件ですね。

単なる調査・分析、セミナー講師、執筆活動は実務要件の対象とはなりません

そこで、理論政策研修と同様、多くの人はこの機会を提供してくれる機関に頼ることになるのではないでしょうか。実務補習を行うことができるのも、経済産業大臣の登録した機関のみであり、中小企業庁の公表する「登録実務補習機関一覧 」では、以下の2機関となっています。

どちらの機関も、1案件あたり6名募集、ほとんどが土日のみで6日間の実務に従事でき、6ポイントを得られるようになっています。更新要件は5年間で30ポイントなので、毎年1回のペースで受けていけばよい計算です。基本的に、参加が認められれば、無料で参加できます(タダ働きとも言いますが)。

中小企業診断協会は、協会のサイトからログイン後、各都道府県協会の案件に応募できるようです。2016年度には、25ほどの案件東京都東京都中小企業診断協会のように、大規模なマッチング大会を実施している協会もあります。マッチング大会は、協会会員の参加は無料、協会非会員の参加は2,000円です。

実践クオリティシステムズは、ホームページ上で空きがあれば応募できるようです。

後は、各都道府県協会の研究会などのコミュニティで募集が行われます。募集の数としては、最も多いのではないでしょうか。なお、研究会などに参加するためには、都道府県協会に入会する必要があります。都道府県によって異なりますが、東京都の場合は年会費が50,000円かかります。さらに、研究会もそれぞれ入会金や年会費が必要なので、結構な出費になります。 企業内診断士が、資格維持にかかる時間的・金銭的な負担を理由に、中小企業診断協会からの退会や、資格の休止、更新断念を考えるというのは、よくある話だと聞くのも、頷けますね。

実務補習または養成課程の実習の指導

実務補習の指導員は、5年以上の実務経験が必要で、補助指導員も2年以上の経験が必要です。さらに、指導員は実習を行う案件を生み出す能力が必要となります。さらに、指導を受ける側にしてみれば、指導員は経験豊富なプロコンサルタントであってほしいところだと思います。

従って、独立したプロコンサルタントが研究会などで指導員とのつながりを大事にしながら、補助指導員の経験を積み、自ら案件を十分に取れるようになって、はじめて指導員にたどり着ける、そういう道なのではないかと思います。

実務補習のポイントを欲する企業内診断士とは、逆の道にしかないポイントで、その道を歩んでいる人は普段からポイントを獲得できているので、あまり必要とされないちょっと皮肉なポイントなのかも知れませんね。

まとめ

中小企業診断士は、資格の有効期間である5年間の間に、知識の補充要件5回と実務の従事要件30日の両方を満たす必要があります。

知識の補充要件は、理論更新研修であれば、6,000×5回=30,000円かかります。
実務の従事要件は、都道府県協会の研究会の紹介であれば、仮に研究会の年会費が10,000円だとしても、(協会年会費50,000円+研究会年会費10,000円)×5年=300,000円かかります。

ただ「資格を維持する」のではなく、それ以上に何か得るものを見つけられないと、なかなか厳しい負担だと言えるでしょう。資格を「維持する」のではなく「活用する」マインドが必要なのだと思います。


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